RAWイメージング。

実は全部JPEG撮って出し。

真空管物語。


トランジスタにとって替えられた真空管
しかし、あの形はいまだに人を引き付ける。

別にこの店に寄りたかったわけではない。
偶然通りかかっただけの話。
店の軒先の梁に並べられたジャンク真空管のセンスに引き込まれた。
店はとても狭い。
曽根電機、というお店。
電機品の修理を生業(なりわい)としており、特に得意なのは蓄音機のようだ。
店の窓際にはおそらくジャンク部品であろう謎の部品が並べられている。
なかには親父と客がいた。
後から聞くと、この客も初めて来た方だという。何かひきつけるものがこの店にはあるようだ。

ここは修理場。となりには修理の済んだ年代物のスピーカーやら蓄音機やらが無造作に置かれている陳列場がある。どこもホコリっぽい。

おやじはベージュ基調の陳列棚を黒に塗り替えている途中だったようだが、私との話に夢中になってくれた。

歳は77といった。これまた無造作に置かれた軍歌のカラオケカセットにも納得した。
この稼業を一から初めて60年になるという。
どの部品のパッケージも今では見られない褪せた印刷色。しかし「レトロ」に分類されない。どの部品も現役なのだ。

戦後にはよくジャンク部品を拾いに行ったらしい彼は「直せないものなどない」といった。
転がった部品からも作業場の雰囲気からも嘘ではないと思った。何より彼の手が物語っていた。

蓄音機のゼンマイ。鋼から作ったという。曲げるのは大変だがガスバーナーでも事足りるらしい。冷え切った今、とても固い。

私にはわからないがどうやら良い真空管らしい。下は750円の真空管から上は60000円の真空管まで。
彼は秋葉原に行くらしいが、最近は何もなくてだめだと言っていた。
「むしろ向こうが買いに来る」らしい。
あと、おやじいわく「無線機のコンデンサーは最高」だそうだ。
このおやじがいうなら間違いない。

二階の倉庫にも案内してくれた。
この階段の雰囲気がたまらない。上に宝がある、というのが伝わってくる。

自作の資材エレベータ。
自作が好きらしく、赤外線の防犯ライト(人を察知すると点灯するアレ)を改造して、点灯ではなくラジオが鳴るようにしていた。
確かにこれならすぐ気付く。
ほかにも作業場には電圧・電流メーターがたくさんついている。何故かと聞いたら「電気の切り忘れが分かるから」とのこと。
大出力ハンダごてでいろいろ焦がした経験があるらしい。
そんな"こて"も修理品。


さて昔のオーディオ機器はどんがらが非常にデカイ。そんなものが二階にはたくさんあった。
いつのものか想像もつかないオシロスコープに興奮する。
そういった高価な仕事道具はほとんど中古で買ってくるんだそうだ。

二階の作業場は日当たりが良い。一階が工房なら、ここは秘密基地。
天井裏に続くハシゴがあって、そこにもお宝がたくさんあるらしい。


こういう店に訪れると後継ぎが気になってしまう。
息子に譲るつもりでいろいろ家屋を改造していたらしいが、息子さんはめぐりめぐって宇宙関係の仕事をしている。
少し残念そうで、誇らしげでもあった。

息子さんが言いもしないのに電気大学に入った時は嬉しかったらしい。この話のときおやじは笑顔だった。

このおやじを見ていると、なんでも自分で出来そうな気になってくる。
パワーのある人間は他人にもパワーを与える。
かっこいいじゃないか。